退職勧奨の実務上のポイント

 退職勧奨とは、従業員に対して退職するように働きかけ(誘引し)、自発的な意思(自由意思)による退職を促すことです。あくまで従業員の自発的な意思による退職であるため、会社から行う解雇とは異ることになります。そのため、会社の経営上の理由などから使用者が必要な説明を行い、従業員がこれを理解して自由意思により退職するという法律行為ではない事実行為ということになります。
 退職勧奨で注意することは、退職勧奨が従業員の自由な意思の形成を基本としますので、これを阻害しないようにすることです。例えば従業員に圧力を加えて退職するか否かについて選択の自由を奪って退職届を提出させることや、誇張や虚偽の説明により判断を誤らせる、退職勧奨に応じる意思がないのが明らかなのに執拗な説得を繰り返すことなどは意思表示の無効、取り消し、または不法行為を形成する原因となります。
 裁判例としましては、 長期間にわたって執拗な退職勧奨を繰り返し激しい疲労などに陥っているのに乗じて退職の申し出を行わせたことが強迫に該当するとした事例、退職の意思がない者に対し十数回にわたって勧奨行為を行ったことが不法行為に該当するとした事例などがありますので、退職勧奨を行う際の言動、態様は注意が必要となります。

退職勧奨の手順と実務対応

1.対象従業員の選定、勧奨スケジュールの検討
 対象者の選定にあたっては男女雇用機会均等法や労働基準法等によって下記の絞り込みについては禁止されておりますので、注意が必要です。
(1)退職勧奨の対象を男女いずれかのみとすること
(2)能力および資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること
(3)男女いずれかを優先すること
(4)国籍、宗教的・政治的信条、門地等により差別すること
また、勧奨スケジュールにつきましては、目標削減数を達成する緊急性の度合いなどにもよりますが、対象人数が限られている時は、対象従業員に対して一斉に勧奨する他、個別に1人ずつ勧奨していく方法も考慮すべきでしょう。一斉に複数の対象従業員に対して勧奨を実施すると、それらの従業員が連帯して退職条件の引き上げ要求や法的権利の行使など、集団的な対抗措置を図る要因を作ってしまう可能性があり、勧奨をより困難なものとしてしまう恐れがあり注意が必要です。

2.退職条件の検討
   退職勧奨は、雇用関係の終了に同意するよう従業員を説得する交渉です。合理的な妥協点を探り同意に向かわせるためには、退職することによるメリットを理解させることが必要です。魅力的な退職条件が提示できれば勧奨が容易になるのは確かです。例えば、退職金の上積みや再就職支援といった条件を提示するのが一般的です。

3.組合等との協議
    退職勧奨は、対象従業員に個別に働きかけるものであるため、社内への十分な情報提供をしないまま、いきなり勧奨に踏み切るとよく理由を知らされないまま不安を抱いた従業員側が疑念を抱き、スムーズな勧奨ができない原因となります。対象従業員がごく少数ならともかく事前に組合等と協議し、理解を得ておくのが適当でしょう。

4.対象従業員への勧奨
   従業員が自由な意思決定を妨げられるような退職勧奨は許されず,説得の回数,説得のための手段・方法は社会通念上相当であることが求められます。そのため、その勧奨の方法が強制的であったり執拗なものである場合には不法行為を構成し,使用者に損害賠償責任を生じさせる可能性もあります。それゆえ、(1)勧奨する上司は一人又は二人とし、従業員の自由な意思を尊重できるような雰囲気で行う。(2)時間は20分~30分程度とし、就業時間中に行う。(3)場所は会社施設とし、自宅へ押しかけたり電話したりはしない。(4)回数は、2,3回程度とする等の慎重な配慮が必要です。

5.参考裁判例
 退職勧奨の方法が違法であり、不法行為を構成すると判断された例としては、

①傷病により休職していた労働者が復職するに際し、上司5名が、約4ヶ月間に、復職について30数回の「面談」「話し合い」を行い、その中に約8時間にわたるものもあり、面談において「能力がない」、「別の道があるだろう」、「寄生虫」、「他の乗務員のめいわく」等と述べ大声を出したり、机を叩いたりし、また、労働者が断っているにもかかわらず、同人の寮にまで赴き面談して退職勧奨した事案について、その頻度、面談時間の長さ、言動は、社会通念上許される範囲を超えているとして、慰謝料請求を認めた事例(全日本空輸事件・大阪地判平11.10.18・労判772.9、同事件・大阪高判平13.3.14・労判809.61)
②管理職が連日、勤務時間内外にわたり執拗に希望退職届を出すよう強く要請し、希望退職期間経過後は、暴力行為や仕事差別などの嫌がらせによって退職を強要したことについて慰謝料請求を認めた事例(エール・フランス事件・東京高判平8.3.27・労判709.69)
③2名の高校教諭に対し、うち1名については4ヶ月の間に11回、もう1名については5ヶ月の間に13回にわたり、1回20分から2時間強に及ぶ退職勧奨を行い、その間、退職するまで勧奨を続ける旨を繰り返し述べたり、退職しない限り、所属教員組合の要求に応じないとの態度を示したり、研究物等の提出を求めたりしたことについて不法行為による慰謝料請求を認めた事例(下関高校事件・最判昭55.7.10・労判345.20)

 

社会保険労務士法人すずき事務所 専門部長
特定社会保険労務士 佐藤光一
執筆者紹介:厚生労働省勤務を経て、中小企業の
人事・労務管理の支援を一筋に20年です。
 

人事・労務管理情報 | 更新日:2011.10.07